伯昏子:小林一茶俳句百首

1

倖存於世,霑我者,其惟草露乎。

生残る我にかかるや草の露

2

待與花友重逢,尚須幾春耶。

華の友に又逢ふ迄は幾春や

3

向晚之櫻,亦今日成昔已矣。

夕ざくらけふも昔に成にけに

4

倖存兮倖存斯世,何寒涼哉。

生残り生残りたる寒さかな

5

夏之蟬,亦鳴露於露水之世。

露の世の露を鳴也夏の蝉

6

人世間,雖鳴蟲亦分巧拙。

世の中や鳴虫にさへ上づ下手

7

杜宇,雨降惟在我一身乎。

時鳥我身ばかりに降雨か

8

春風野徑裡,淺黃傘相連。

春風や野道につづく浅黄傘

9

紛攘之世,祓穢須有晚櫻。

騒がしき世をおし祓つて遅桜

10

畫中地獄垣,有雲雀懸鳴焉。

地獄画の垣にかかりて鳴雲雀

11

春日也,有水處即有殘暉。

春の日や水さへあれば暮残り

12

露水之世之露水之中,爭詈何喧哉。

露の世の露の中にてけんくわ哉

13

(六道之一修羅)

一聲聲,花木蔭下鬬弈哉。

声声に花の木陰のばくち哉

14

釜一枚,柳一本,是亦為一春。

なベ一ッ柳一本も是も春

15

今花不宜賞,未來誠可畏。

けふは花見まじ未来がおそろしき

16

慾望之浮世,雖片隅亦有花開。

花咲や欲のうきよの片すみに

17

何清涼耶,穿雨之電光。

涼しさや雨をよこぎる稲光り

18

(六道之五人道)

綻放之花中,眾生蠢蠢而動哉。

さく花の中にうごめく衆生哉

19

人入花蔭中,豈無血脈親。

花の陰赤の他人はなかりけり

20

春風,女侍腰間之匕首也。

春風や供の女の小脇差

21

酒酣之後,喋喋亦同八重櫻哉。

酔つてから咄も八重の桜哉

22

悠然見南山者,青蛙哉!

ゆうぜんとして山を見る蛙哉

23

春至矣,愚癡之上復返愚癡。

春立や愚の上に又愚にかへる

24

縱是在佛前,鶯聲亦不異。

鶯や御前へ出ても同じ声

25

鳴哉鳴矣哉,聲雖拙亦俺之鶯也。

鳴けよ鳴けよ下手でもおれが鶯ぞ

26

春風之音,亦奏於尾上社松之間乎?

春风や尾上の松に音はあれど

27

人世間,賞花於地獄之上哉。

世の中は地獄の上の花見哉

28

鵑啼纖曲,如初三鉤月乎。

三日月とそりがあふやら時鳥

29

雖在花都,亦有倦時矣。

或時は花の都にも倦にけり

30

夜永乎?孤寂乎?虱亦如是耶?

虱ども夜永かろうぞ淋しかろ

31

蝶飛也,若無望於此世。

蝶とぶや此世に望みないやうに

32

對老松,成二人,年月忘矣。

老松と二人で年を忘れけり

33

美哉,洞扉而窺天河也。

うつくしやしょうじの穴の天の川

34

雁兮勿鳴,何處非同一浮世乎。

鳴な雁どっこも同じうき世ぞや

35

一片草,亦寄旅於涼風也。

一本の草も涼風やどりけり

36

有人,則有蠅矣,亦有佛矣。

人有れば蝿あり仏ありにけり

37

月一霎,鶯一霎,夜明矣。

月ちかり鶯ちかり夜は明ぬ

38

迄今尚未因晝寢得咎哉。

今迄は罪もあたらぬ昼寝哉

39

我之春也,亦有可喜,亦無足道。

目出度さもちう位也わらが春

40

牽牛花,二三葉,春霜裡,何孤寂。

二葉から朝顔淋し春の霜

41

泣露墜,鴿乃念佛哉。

露ほろりほろりと鳩念仏哉

42

蝶寢於袖,前生所約乎。

過去のやくそくかよ袖に寝小てふ

43

度彼牡丹,扇可當尺哉。

扇にて尺を取たるぼたん哉

44

窮垣木槿,世世在哉。

代代の貧乏垣の木槿哉

45

槿花開哉,涓涓之川可涼酒。

酒冷すちよろちよろ川の槿哉

46

一無所有,然心安而身爽也。

何もないが心安さよ涼しさよ

47

黃梅雨,借得五千五百支傘矣。

五月雨や借傘五千五百ばん

48

花蔭下,如斯生而居,亦不可思議耶。

斯う活て居るも不思議ぞ花の陰

49

山月照拂盜花人。

山の月花盗人をてらし給ふ

50

彼岸亦嘗有櫻花開放之日也。

かの岸もさくら咲日となりにけり

51

冬浴祈佛,龍見於背哉。

寒垢離にせなかの龍の披露哉

52

法山中,蛇亦欲捨衣浮世耶。

法の山や蛇もうき世を捨衣

53

朦朧天,夕山影,飴屋笛。

かすむ日やタ山かげの飴の笛

54

清涼乎哉!枉然一夢十三里。

涼しさや只一夢に十三里

55

皇都哉!東西南北皆錦衣。

みやこ哉東西南北辻が花

56

螽斯壯鳴,起涼風矣!

涼風や力一ぱいきりぎりす

57

祓疫茅環,燕子先穿哉。

一番に乙鳥のくぐるちのわ哉

58

古笛響,原田一例青。

けいこ笛田はことごとく青みけり

59

眠暑夜,疊疊荷花間。

暑き夜の荷と荷の間寝たりけり

60

今世之露水,曲折在蓮葉。

蓮の葉に此世の露は曲りけり

61

物我渾忘,烏與柳哉。

けろりくわんとして烏と柳哉

62

葦鶯,葛西之窮途安在哉。(葛西,江户南部之地)

行行子どこが葛西の行留り

63

為聞松風三啟程。

松風聞きに三度旅立つ

64

野狐無社,鳴於花花世界。

花の世を無官の狐鳴にけり

65

彼其之蝴蝶,化生自蔓草。

葎からあんな胡蝶の生れけり

66

夕月帶涼至,然貌若不知。

月さへもそしられ給ふ夕涼み

67

竹籠窸窣,蟋蟀嚙之。

がりがりと竹かぢりけりきりきりす

68

五月梅雨,信濃山雪能持否?

五月雨や雪はいづこのしなの山

69

夕煙嫋,苦夏身瘦烏猶啼。

夕けぶり誰夏痩をなく烏

70

松島小隅,暮鳴雲雀。

松嶋の小隅は暮て鳴く雲雀

71

小蝶嬉逐大貓之尾哉。

大猫の尻尾でなぶる小蝶哉

72

與我相看不厭者,惟蛙哉。

おれとしてにらみくらする蛙哉

73

夏月農閒先備草。

なぐさみにわらを打也夏の月

74

覺起欣望,青田每每哉。

おきおきの欲目引張る青田哉

75

休彼草茵,夏木蔥蘢。

芝でした休み所や夏木立

76

款冬葉湧百千螢。

百の螢をはなつ蕗の葉

77

疇昔門前樹,晚涼應無恙。

門の木も先つつがなし夕涼

78

鴿飛萵苣田,歡如逢大節。

鳩に節句をさする苣畑

79

築波山雨,綿綿之意不負人。

たのもしき雨がはらはら筑波から

80

初雪乎!一二三四五六人。

初雪や一二三四五六人

81

雪花漫天日,草屦沾泥過

花ふぶき泥わらじで通りけり

82

涼風淨土,則我家哉。

涼風の浄土則我家哉

83

雪融時,童稚滿村哉。

雪とけて村一ぱいの子ども哉

84

雪深處,難聞吾鄉之鐘聲

我郷の鐘や聞くらん雪の底

85

雁鷗爭喧己身雪哉。

雁鴎おのが雪とてさわぐ哉

86

香雪緩緩落矣哉

むまさうな雪がふうは人りふはり哉

87

月兮梅兮,說此道彼,光陰已了。

月よ梅よ酢のこんにやくのとけふも過ぬ

88

寒風時節,廿四文寄遊女家

木がらしや廿四文の遊女小家

89

雪日盆灰好習字

雪の日や字を書習ふ盆の灰

90

天廣地寬,秋亦行行去矣。

天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ

91

秋夜旅人忙針黹。

秋の夜や旅の男の針仕事

92

敝巢哉!外散雪花,內落煤塵。

外は雪内は煤ふる栖かな

93

烈風哉!東西南北交相吹。

東西南北吹交ぜ交ぜ野分哉

94

須有謝,淨土飛來衾上雪。

ありがたや衾の雪も浄土より

95

安可寢花影,未來宜憂懼。

花の影寝まじ未来が恐ろしき

96

行乞人,寒天何處可終老。

寒空のどこでとしよる旅乞食

97

驟雨裸身騎光馬。

夕立や裸で乗しはだか馬

98

家有朝霧晝霧夜霧哉。

我宿は朝霧昼霧夜霧哉

99

湯泉霧輕揚,輕揚如蝶哉。

湯けぶりのふはふは蝶もふはり哉

100

行雲不識造奇峰。

峰をなす分別もなし走り雲

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